ディアトロフ峠事件の概要

「ディアトロフ峠」は被害者リーダーの名前が由来

「ディアトロフ峠」は被害者リーダーの名前が由来

世界最大のミステリーと言われているディアトロフ峠事件は、1959年2月2日の夜、ソ連(現在のロシア)のウラル山脈北東部で雪山登山をしていた男女9人が不可解な死を遂げた事件です。

事件現場となったのは、「死の山」と呼ばれるホラート・シャフイル山の東斜面でした。ディアトロフ峠と言われている由来は、登山メンバーのリーダーであるイーゴリ・アレクセーエヴィチ・ディアトロフの「ディアトロフ」という名前から付けられたということ。

全員が長距離スキーや山岳遠征の熟練者

全員が長距離スキーや山岳遠征の熟練者

1月31日、ウラル科学技術学校(現在のウラル工科大学)の学生と卒業生のメンバー9人で、22日間の冬山トレッキングを行っていました。男性が7人、女性が2人で、全員が長距離スキー旅行や山岳遠征の熟練者でした。

極寒の中テントを引き裂き飛び出した

極寒の中テントを引き裂き飛び出した

当時の調査の結果から、一行はマイナス30度の極寒の中、テントを引き裂いて裸足、または靴下を履いた状態で外に飛び出し、9人中5人は低体温症で死亡、残りの4人は頭骨や肋骨の骨折や舌と目を失った状態で発見。更に、2人の衣服からは高い線量の放射性物質が検出されていました。

事件は人のいない山奥で起こり、生存者もいなかったため、全容は未だに明らかとなっておらず、多数の謎が残されており、現在では75もの仮説が打ち立てられています。

事件資料は1990年代まで機密扱いに

事件資料は1990年代まで機密扱いに

当時のソ連では、9人は「抗いがたい自然の力」によって死に至ったとされ、事件後の3年間は事件現場の地域に近寄ることが禁止されました。また、事件の資料は1990年代まで機密扱いにされ、ようやく公開されることになっても一部の文書は失われていました。

ディアトロフ峠事件の発生前の状況

トレッキングに参加したメンバーは当初10人でしたが、男性の一人が持病の悪化で途中で抜けました。そのため、被害者は9人ということだったのです。ここでは当初のメンバー10人を紹介していきます。

トレッキングメンバーと被害者

1.イーゴリ・アレクセーエヴィチ・ディアトロフ

1.イーゴリ・アレクセーエヴィチ・ディアトロフ

1936年1月13日生まれ(当時23歳)

リーダーのイーゴリ・ディアトロフは、雪山登山のエキスパートで、いつも冷静で的確な判断ができるため、メンバーからの信頼も厚かったと言います。

ウラル科学技術学校無線工学部の5年生で、女性メンバーのジナイダ・コルモゴロワに思いを寄せていたということ。

2.リュドミラ・アレクサンドロヴナ・ドゥビニナ

2.リュドミラ・アレクサンドロヴナ・ドゥビニナ

1938年5月12日生まれ(当時21歳)

ウラル科学技術学校物理工学部の4年生で、とても活発で明朗な女性でした。残された写真の殆どは彼女が撮ったものです。

3.ジナイダ・アレクセーエヴナ・コルモゴロワ

3.ジナイダ・アレクセーエヴナ・コルモゴロワ

1937年1月12日生まれ(当時22歳)

ウラル科学技術学校無線工学部の5年生。社交的で誰にでも優しい女性なので、メンバーの中の男性数名が思いを寄せていたようです。

4.アレクサンドル・セルゲーエヴィチ・コレヴァトフ

4.アレクサンドル・セルゲーエヴィチ・コレヴァトフ

1934年11月16日生まれ(当時24歳)

ウラル科学技術学校物理工学部の4年生。原子力関連の研究所員で、とても勤勉な性格の持ち主。

5.ルステム・ウラジーミロヴィチ・スロボディン

5.ルステム・ウラジーミロヴィチ・スロボディン

1936年1月11日生まれ(当時23歳)

ウラル科学技術学校力学学部の卒業生。現在は閉鎖されているスヴェルドロフスク科学研究所のエンジニアでした。

6.ユーリー(ゲオルギー)・アレクセーエヴィチ・クリヴォニシチェンコ

6.ユーリー(ゲオルギー)・アレクセーエヴィチ・クリヴォニシチェンコ

1935年2月7日生まれ(当時24歳)

ウラル科学技術学校土木工学の卒業生で、キシュティム事故(チェルノブイリ原子力発電所と福島第一原子力発電所の事故に次いで大きい原発事故)のあったマヤック化学工場の職長を務めていました。

7.ユーリー・ニコラエヴィチ・ドロシェンコ

7.ユーリー・ニコラエヴィチ・ドロシェンコ

1938年1月29日生まれ(当時21歳)

ウラル科学技術学校無線工学部の4年生。

8.ニコライ・ウラジーミロヴィチ・チボ=ブリニョーリ

8.ニコライ・ウラジーミロヴィチ・チボ=ブリニョーリ

1935年6月5日生まれ(当時24歳)

ウラル科学技術学校土木工学部の卒業生。エンジニアとして務め、明るく陽気で周りから慕われたということ。

9.セミョーン(アレクサンドル)・アレクサンドロヴィチ・ゾロタリョフ

9.セミョーン(アレクサンドル)・アレクサンドロヴィチ・ゾロタリョフ

1921年2月2日生まれ(当時38歳)

メンバーでは一番年上で、クーロフカ収容所の講師とベラルーシSSR物理研究所に勤めていました。

10.ユーリー・エフィモヴィチ・ユーディン

10.ユーリー・エフィモヴィチ・ユーディン

1937年7月19日~2013年4月27日

メンバーの中で唯一生き残った人物です。当時ウラル科学技術学校工学経済学部の4年生で登山前に持病の痛風が痛み出し、メンバーから外れたおかげで死を免れました。

トレッキングの足跡を辿る

1月25日:イヴデリからヴィジャイへ

1月25日:イヴデリからヴィジャイへ

1959年1月25日、一行は列車でスヴェルドロフスク州北部の中心地イヴデリに到着します。次にトラックをチャーターして、イヴデリから約80キロ北方にある最後の有人地ヴィジャイに到着。

1月27日、ヴィジャイからオトルテン山に向けて出発するのですが、28日にユーリー・ユーディンが持病のリウマチが痛み出し、メンバーから離脱します。

ヴィジャイからの行動は憶測による

ヴィジャイからの行動は憶測による

そのためユーディンと別れた後、生きているメンバーと遭った人は現在に至って誰も現れていません。

その後のメンバーの行動は、最後のキャンプ地となった場所で発見された日記や写真などを元にして推測されたものとなります。

尚、一行の目的地は、事件発生現場から約10キロ北に離れたオトルテン山に設定されていました。登山ルートはこの季節にすると難易度が高いルートでしたが、一行の長距離スキー旅行や山岳遠征の経験値は高く、この計画に反対する者は一人もいなかったようです。

1月31日:ヴィジャイからオトルテンの山麓に到着

1月31日:ヴィジャイからオトルテンの山麓に到着

出発から6日後の1月31日、ヴィジャイから未開の原生林を北西方向に進み、オトルテンの山麓に到着した一行は、本格的な登山の準備と、食料や物資を登山に必要な分だけを持ち、帰路に必要な分は残置しました。

2月1日:吹雪で方向を見失う

2月1日:吹雪で方向を見失う

翌2月1日、一行はオトルテン山に向かって出発します。渓谷を北に越えて適した場所にキャンプを張ろうとしていたようですが、吹雪で視界が悪く、方向を見失ってしまいます。

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