ただ、イスラム教は“偶像崇拝”を禁じています。

そもそも預言者ムハンマドは、メッカの神殿に入った際、そこにあった全ての神の像などの破壊を命じたとも伝えられていますし、旧タリバン政権下においては、バーミヤン遺跡の仏像を破壊したことでも話題になりました。

今回の首都カブール制圧後も、イスラム統治の復活を印象付ける狙いがあるためか、元国王らの壁画はもちろん、女性が写った看板ですら撤去するなど、徹底した施策がとられているようです。

もっとも、詳しくは後述しますが、この中村哲さんの肖像画の塗りつぶしに関しては、タリバン上層部や幹部らの指示によるものではなく、あくまで現場にいるタリバンのメンバーが勝手にやったことだとも言われているようです。

中村哲に対するタリバン幹部の発言から見える両者の関係とタリバンの内情

2021年8月15日の首都カブール制圧により、アフガニスタンの新政権として始動したばかりのタリバン。

アフガニスタンの首都カブールにある大統領府を制圧したタリバン兵士

アフガニスタンの首都カブールにある大統領府を制圧したタリバン兵士

今回の事件は、「タリバンが前回(1996年~2001年)支配していた時のような、市民生活を厳しく制限する統治を復活させるのでは?」との懸念が国内外から噴出していた中で起きた出来事だったのです。

ただ、前出の新政権・タリバンの報道担当幹部であるスハイル・シャヒーン氏は、中村哲さんとの関係について次のように言及しているんんですよね。

「ドクターナカムラ(中村哲医師)はタリバンとはいい関係だった」

新政権・タリバンの報道担当幹部であるスハイル・シャヒーン氏

新政権・タリバンの報道担当幹部であるスハイル・シャヒーン氏

さらに、次のように中村哲さんに対して感謝の言葉すら口にしており、不幸にも中村哲さんが襲撃に遭って殺害されてしまったのは、中村哲さんがタリバンの力が及ぶ地域でではなく、前政権が支配していた地にいたからだと主張しています。

「ドクターナカムラは、アフガニスタンの人たちの生活向上のために偉大な仕事をしてくれた。われわれは非常に感謝している。タリバンは、私たちの支配下にある地域では安全を提供することで彼の活動がしやすくなるよう助けてきた。不幸なことに、前政権が支配していた(東部ナンガルハル州の)ジャララバードで殺害されてしまった。われわれは決してドクターナカムラがアフガンの人たちのために行なった仕事を忘れることはない」

スハイル・シャヒーン氏

スハイル・シャヒーン氏

タリバン上層部の意思がまだ現場に行き届いていないだけ?

また、中村哲さんの肖像画が塗り潰された件に関して、日本メディアの多くはタリバン上層部の関与があったとも報じており、そのことについてスハイル・シャヒーン氏は、次のように言及しています。

「タリバンの上層部は、彼の肖像画が塗り潰された事実は承知していない」

制作中の中村哲さんの肖像画

制作中の中村哲さんの肖像画

つまり、中村哲さんの肖像画を塗り潰しは、タリバン上層部や幹部らの指示によるものではなく、あくまで現場にいるタリバンのメンバーが勝手にやったことだと言うことを示唆しているんですよね。

しかし、裏を返せば、タリバン上層部の意思が現場にまで行き届いておらず、タリバン内部の現在の混乱っぷりを示しているとも言えそうです。

現在のタリバン政権の内情と危険性、そして今後の展開について分析した説得力ある見解があったので、最後にご紹介しておきましょう。

国際社会から認められたいと考えているタリバンは、新政権の運営に向けて対外的なイメージに目を向けている。アフガニスタンのこれまでの国家予算の半分が国際的な支援である現実を考えれば当然だろう。

しかしその前に、内部の統制ができなければ、ここで挙げたような現場の「暴走」が続くことになる。まだ20年前の「タリバン1.0」を引きずっているタリバン兵らも地方などには多いからだ。

血気盛んなタリバン兵

血気盛んなタリバン兵

タリバンが兵士の暴走をいかに制することができるかが、今後の重要なポイントになりそうですね。

タリバンとアメリカ政府との間で米軍撤退後初の直接協議が行われる

そして、2021年10月、そんなタリバンと、アメリカ政府代表団との間で、米軍撤退後初となる直接協議が2日間に渡って行われました。

この協議では、過激派勢力の封じ込めやアメリカ国民の脱出、人道支援の提供などが話し合われたと言います。

ただ、タリバン側が、「アメリカがアフガニスタンへの人道援助の提供を開始することに合意した」との声明を発表したのに対して、アメリカ側はこれまでのところ、タリバンの主張内容を正式に認めていないようです。

また、対面協議を再開したからと言って、タリバンをアフガニスタンの正当な政府として承認したわけではないと強調するなど、両者の間にはまだまだ深い溝がありそうですが、和平に向けての第一歩を踏み出したと見て良いのかも知れませんね。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

長らく戦闘状態にあったアフガニスタンで、国産NGO組織「ペシャワール会」の代表として、医療支援や用水路整備などの灌漑事業に尽力した医師・中村哲さん。

残念ながら2019年12月に武装勢力に銃撃され、この世を去った中村哲さんですが、真っ先に犯行を疑われたタリバンと中村哲さんの関係について、タリバン報道担当幹部の発言などからまとめてみました。

最後になりましたが、志半ばで凶弾に倒れた中村哲さんのご冥福を、心よりお祈りいたします。

関連するキーワード

関連するまとめ

タリバンの資金源とは?支援国は意外にも多かった

2021年8月からアフガニスタンで政権を握っているタリバン。彼らはなぜ長年に渡って活動を続けられ、今後どのよ…

aquanaut369 / 131 view

エボラ出血熱の現在!日本での最新情報・基礎知識まとめ

エボラ出血熱はアフリカが発生源と言われ、初期の段階では助かる確率が高いですが、治療が遅れると50%から90%…

Mrsjunko / 101 view

メキシコカッターの動画がヤバい!被害者と犯人と画像・見る方法・その後や現在まとめ【検…

メキシコカッター(検索してはいけない言葉)について、そのヤバさが注目を集めています。また、メキシコカッターの…

cyann3 / 233 view

ジェフリー・ダーマーの生い立ちと家族!父親や兄・事件詳細と関連映画も総まとめ

ジェフリー・ダーマーとは、1978年から1991年にかけて青少年17人を殺害し、屍姦や死体切断をした上にその…

Mrsjunko / 334 view

リンカーン大統領暗殺事件の真相~犯人とその後も総まとめ

アメリカ合衆国第16代大統領であるエイブラハム・リンカーン大統領は、1865年4月14日に暗殺されました。今…

Mrsjunko / 137 view

ルクソール事件(エジプト)の日本人犠牲者は新婚旅行カップル!場所とテロ犯人の動機・そ…

1997年11月17日にエジプトで起こったルクソール事件では日本人犠牲者が10人いて、そのほとんどが新婚旅行…

Mrsjunko / 442 view

アメリカの大学の人気ランキングTOP50【最新決定版】

今回は、アメリカの大学の人気ランキングTOP50を紹介していきます。グローバル社会が根付いている現代において…

maru._.wanwan / 165 view

同じカテゴリーの記事

同じカテゴリーだから興味のある記事が見つかる!

【なぜ】ウォーターゲート事件をわかりやすく説明!基の映画も総まとめ

1972年に始まったアメリカの政治スキャンダル「ウォーターゲート事件」は、盗聴に始まりニクソン大統領の辞任ま…

Mrsjunko / 121 view

ナッシュビル爆発事件はテロの噂!ミサイル・犯人・その後のニュースまとめ

アメリカ・テネシー州で起こった「ナッシュビル爆発事件」について、テロの噂が浮上しています。また、ミサイル・被…

cyann3 / 96 view

ソニー・ビーン一族事件は嘘?実在?洞窟や死刑を逃れた末裔と真相まとめ

ソニー・ビーンとは、15世紀頃にスコットランドに実在したとされる人物です。48人の一族がいて洞窟に住み、人間…

Mrsjunko / 294 view

国別の男性平均身長ランキングTOP70【最新決定版】

一般的には日本人よりも外国人の方が男性の平均身長は高いのですが、どの国の男性の平均身長が高いのか気になる人が…

maru._.wanwan / 159 view

リーマンショックの原因と影響!日本の日経平均株価・為替・チャートなどわかりやすく解説

2008年9月、アメリカの有力投資銀行である「リーマンブラザーズ」の経営破綻が原因で発生したリーマンショック…

cyann3 / 183 view

ヴォイニッチ手稿の内容解読は危険?その正体や全文ダウンロードなどを総まとめ

ヴォイニッチ手稿は1912年にイタリアで発見されてから、100年経った今でも解読不可能となっている謎の多い文…

Mrsjunko / 136 view

レプティリアンの正体や真実!特徴と見分け方など総まとめ

「ヒト型爬虫類」とも言われ、多くの人の想像をかきたてている未知の存在である「レプティリアン」。この記事では、…

kent.n / 223 view

アクセスランキング

人気のあるまとめランキング

スポンサードリンク