スーツケースには二重底の細工が

スーツケースには二重底の細工が

その4人というのが勝野良男さん、勝野正治さん、浅見喜一郎さん、本多千香さんでした。当初はわけがわからなかったと語る4人。しかも、新しいスーツケースには細工が施されていて、2重底になっていたのです。その下の部分に大量のヘロインが隠されていたようでした。

ヘロインの量は4個のスーツケースに合わせて13キロも隠されていたそうです。

本多千香さんの後日談では、「新しいスーツケースを手渡された時、重たいような気がした」と感じたそうですが、自分の荷物が無事だったことも相まって、深く考えなかったということ。

無罪を主張するも言葉が通じなかった

無罪を主張するも言葉が通じなかった

7人は身柄を拘束され、7人中ヘロインが入っていなかった女性2人を除いた5人が逮捕されてしまいます。本多千香さんら4人は、日本から持ってきたスーツケースが盗まれて、現地のガイドが新しいスーツケースを用意したと説明しながら、ヘロインなど持っていないと必死に主張します。

5人は10年以上の懲役刑に伏されることに

5人は10年以上の懲役刑に伏されることに

しかし、取り調べで同席した通訳は、片言の日本語しか話すことができないオーストラリア人で、本多さんたち4人の主張は伝わりませんでした。

1994年3月24日から始まった裁判でも、同じ通訳が同席する事態になり、無罪の主張も裁判官には一切通じなかったのです。そのため、主張を認めてもらうことができず、ツアーリーダーである勝野良男さんは15年の懲役刑に、他の4人は10年の懲役刑に処されることとなります。

その後、男性4人は同じ刑務所の同じ房に収容されますが、本多千香さんだけは女子刑務所の雑居坊に収監されることになりました。

本多千香さんは、言葉もわからない国でたった1人、囚人たちに囲まれて孤独な刑務所暮らしを余儀なくされてしまいました。

出典:YouTube

メルボルン事件で日本人初の個人通報制度の活用

1988年に国境なき刑事弁護団が収監中の5人と面会

1988年に国境なき刑事弁護団が収監中の5人と面会

この事件を知った「国境なき刑事弁護団」は、1998年にメルボルンの刑務所を訪れて、収監されている本多千香さん他4名の男性と面会しました。

話を聞いた弁護団は、この事件がえん罪となった要因は通訳に問題があったことを突き止めるとともに、個人通報制度を活用する意思を固めます。

個人通報制度とは、人権条約に認められた権利を侵害された個人が、各人権条約の条約機関に直接訴え、国際的な場で自分自身が受けた人権侵害の救済を求めることができる制度です。 人権侵害を受けた個人は、その国において利用できる国内的な救済措置を尽くした後であれば誰でも通報する事ができます。
えん罪の理由は通訳にあると断定

えん罪の理由は通訳にあると断定

その要因は、本多千香さんたちが英語が話せないため、通訳に期待をしていましたが、捜査の審問や裁判での通訳の能力は低く、十分本人たちの言葉を伝えることができなかったため、警察の尋問や裁判での質問に対する十分な反論ができなかったと判断しました。

この事実は、明らかに国際自由権規約が定める刑事手続に反していて、公正な裁判を受ける権利を妨害された権利の違反でもあります。

自由権規約に違反したと判断

自由権規約に違反したと判断

これは、自由権規約に違反したと判断され、締約国の行為によって人権を侵害された例の1つになります。よって、国籍を問わずジュネーブの自由権規約委員会に個人通報して、侵害された人権の回復を求めることができるということなのです。

オーストラリアは第1選択議定書の批准国

オーストラリアは第1選択議定書の批准国

本多千香さんたちが受けた人権侵害の事実を、自由権規約委員会が認めた場合、締約国に対して勧告をし、人権侵害の是正を要求することができるようになります。

幸いにも、オーストラリアでは第1選択議定書の批准国であったため、本多さんたちは個人通報者として承認されたということです。

日本人初の個人通報を行った事件

日本人初の個人通報を行った事件

もしも逆の立場ですと、日本は国際人権規約の承認はしていますが、第1選択議定書が非承認なので、個人通報は叶いませんでした。

そして、1998年9月22日、事件から6年後に42名の弁護士が申立代理人となり個人通報を行いました。そのため、この事件は日本人初の個人通報を行った事件となっています。

国境なき刑事弁護団はなぜ最初の裁判から関わらなかったのか

国境なき刑事弁護団はなぜ最初の裁判から関わらなかったのか

5人が逮捕されて裁判が始まったのは1994年3月。それから約3年後の1997年6月に、日本の弁護団が初めて本多さんらと面会しています。そこから献身的に弁護団は活動していました。

こんなに一生懸命になって動いてくれるのなら、なぜ裁判が始まった時から動いてくれなかったのだろうかと疑問に思うでしょう。最初から関わってくれていたなら、有罪判決にはならなかったかもしれません。

個人通報の申立のための手段だった

個人通報の申立のための手段だった

しかし、弁護団はあくまでも日本の弁護士です。そのため、裁判で弁護を行うことができるのは、あくまでも日本で起こった犯罪に限られるのです。被告人が日本人であっても、海外での犯罪裁判には手出しできないという規則があります。

個人通報の申立をするには、裁判のやり直しを求めるという形でやる必要があったため、山下弁護士らの弁護団は、最初の判決を待ってから挑んだということです。

この方法は、過去に日本でとられたことのなかった初めての試みでした。

メルボルン事件での個人通報の却下

個人通報の申立から8年後に却下される

個人通報の申立から8年後に却下される

個人通報の申立をしてから8年後の2006年11月7日、規約人権委員会での審理の結果、本多千香さんを含む4名の個人通報の申立が却下されました。

その理由は、個人通報の審査には第一段階で許容性審査(手続き的要件)があり、この審査に通れば実体審査が行われ、人権侵害があったかどうかが審査されます。

国内的救済手段について尽くされていない?

国内的救済手段について尽くされていない?

メルボルン事件の場合、第一段階での重要な要件である「国内的救済手段を尽くしていること」が必要となっています。その結果、国内的救済手段について尽くされていないため却下されたということ。

わかりやすく説明しますと、被告人5名には当時弁護人がついており、通訳人に不満があれば法廷で主張することができたはずだという根拠でした。

5名の被告人は英語が理解できなかった!

5名の被告人は英語が理解できなかった!

法廷内では通訳の問題が指摘されていましたが、控訴の理由にはその問題が触れられていなかったため、国内的救済手段が尽くされていないと判断されたのでした。

しかし、この委員会の却下理由には納得いかない点がありました。5名の被告人は英語が理解できず、話すことも不可能です。そのため、通訳がどの程度被告人である5名の言ったことを理解できているのかを、正しく判断できない状態でした。

却下の理由があまりにも理不尽!

却下の理由があまりにも理不尽!

更に、当時の弁護人も通訳の話している日本語が正しいのかどうかも理解できていなかったのです。

却下の理由が妥当と考えるのならば、裁判の時についた通訳がおかしいと感じ、それが問題になった場合、控訴や上訴まで争わなければならない必要が出てきます。そして、刑事事件で通訳が問題になった事件全体が審査の対象外となってしまうのです。

通訳問題の個人通報は不可能

通訳問題の個人通報は不可能

メルボルン事件で通訳の問題が明るみに出たのは、日本の弁護団が裁判の内容を録音したテープやビデオを全て翻訳してからのこと。法廷にいた被告人や弁護人は、その不備に誰も気づいていなかったのでした。

規約人権委員会ではその不備に立ち入ることなく、通訳の雰囲気からしてうまくいっていると思い込んでしまったようです。

規約人権委員会がわからないことを、異国の被告人たちが通訳に問題があると気付くこと自体無理があります。この棄却に於いて、通訳問題を個人通報で争うこと自体、不可能であると証明しているようなものではないでしょうか。

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