「椅子に座り続ける男」のことを紹介するには、シリア内戦を少しだけ知っておく必要があります。そこで、シリア内戦の大まかなストーリーを説明します。

2011年初頭から中東・北アフリカ地域の各国で本格化した一連の民主化運動「アラブの春」がきっかけとされるシリア内戦は、同年5月に始まりました。

大きな民主化運動は独裁政権で苦しめられた各国の国民へと広がっていきましたが、その中には今も内戦が続いているシリアにも波及しています。

21世紀最大の人道危機とも言われているシリア内戦のきっかけも、このアラブの春にほかなりません。

アサド政権に弾圧されていたスンニ派の人々が、アラブの春に呼応して行動を起こしたことがきっかけで長く続く内戦へと発展したのです。

「アラブの春」の発端となったのは、2010年12月17日にチュニジアに住む失業中の青年が、路上販売に対する当局の取り締まりに抗議して焼身自殺を図った事件でした。

その直後から、各地で起きた大規模デモを衛星放送などが伝えると、全国規模で政権打倒の民主化デモが拡大。2011年1月14日に、ベン・アリ大統領は国外逃亡し、23年間続いた独裁政権が崩壊しました。

その後、エジプト各地で民主化デモが発生。それは、ヨルダン・アルジェリアなどに波及。2月になると、イエメン・リビア・バーレーン・モロッコにも及び、3月にはシリア各地で反政府デモが発生します。

シリア内戦が起こったことで国内は疲弊し経済は低迷、物資がそこをついて物価が高騰していく一方となりました。さらに戦闘や空爆で家を追われた人々は行く当てもなく、また元の生活に戻ることもできないまま国内を避難することしかできませんでした。

そんな2015年、政府軍、反体制派、クルド人勢力、イスラム過激派などの泥沼の内戦が続いている、中東シリアの首都ダマスカスの路上で撮影されたのが「椅子に座り続ける男」の発端となった動画でした。

残酷な写真や動画を掲載することで知られている「LiveLeak」によりますと、撮影場所がシリアのダマスカス市内と説明文に掲載されていたことから、間違いがないようです。

一党独裁状態が長年継続したシリアでは、政府軍と反政府勢力、両勢力を支援する諸外国勢力やクルド人勢力、イスラム過激派組織などによる三者・四者の出口の見えない内戦状態が続いています。

この内戦による被害者は、2011年3月から2021年5月までの間に、159,774人の民間人が殺害されたとされています。しかし、この数値には政府の収容所で殺害された市民の推計値である47,000人は含まれていません。

シリア人の日常は、平穏な毎日から日常的に悲劇と対峙しなければならないものへと変化しました。そんなシリア内戦の中で撮られたのが「椅子に座り続ける男」の動画でした。

動画は無差別爆撃を受けた直後の、シリアの街ダマスカスの路上を舞台に始まります。爆撃直後の騒然とした人々の走り回っている様子や、周囲に煙が立ち込め、瓦礫が飛び散っている様子がうかがえます。

その後カメラは大きく撮影者の後方に動いています。カメラが向けられると、そこには路上で椅子に座っている男性の姿が映し出されます。

足を組んで椅子に座ったままの男性は、建物の破片が直撃し、頭部の上半分が吹き飛ばされて亡くなっていたのです。カメラが少しずつ男性の方へと寄っていき、数秒間なくなった頭の部分がアップで撮られます。

映し出された男性の顔はなく、顔の部分で唯一残った下顎の歯や、砕けて胸のあたりまで垂れ下がった頭部の肉片が確認されます。

しかし、頭から下の部分は普通の姿で、足を組んだまま椅子に座っているのです。頭が見えなければ、本当に何事もなかったかのような姿。

おそらくこの男性は、自分が被害に遭った事にすら気が付かないまま亡くなったのではないかと思われます。本当に一瞬のうちに・・・

そして、こんなにも痛々しい形で、死亡している人間がいるにも関わらず、傍のテーブルの上には男性が死の直前まで飲んでいたコーヒーカップが何事もないように置いてあります。

このような動画は、世界ではどうなのかわかりませんが、日本で検索すると「検索してはいけない」という複合ワードが出てきます。

シリア内戦の悲惨さを伝える動画として世界中に拡散されていますが、日本ではそういった解釈ではないのでしょうか。

今では多くの人達が戦争を知らない国の日本。戦争の悲惨さを伝える動画として配信されていますが、日本では好奇心からの衝撃画像やグロい画像のような形で知られているようです。